3Dスキャンソルーション

Artec 3D社のウクライナへの支援内容

マイクロプラスチックや環境変化の影響を研究 するための生きたサンゴの3Dスキャニング

課題:マイクロプラスチックや環境変化の影響により、サンゴに生じている物理的形状変化を把握することに焦点を当てた長期にわたる調査研究の一環として、接触を最小限に抑えた上で何百ものサンゴの3Dスキャンを素早く行うこと。

ソリューション:Artec Spider及びArtec Studio

結果:今日では、研究者はハンドヘルド式3DスキャンであるArtec Spiderを用いて一分以内にサンゴを個別に3Dスキャンし、その正確な物理的寸法をミリ単位以下の精度で把握することができる。

なぜ、Artec 3Dなのか:従来のサンゴの計測方法はサンゴに危害が加わり、その過程でサンゴを殺してしまうことも多い。しかし、Artec Spiderを使用すれば、サンゴはそれぞれ、水中から取り出したばかりの水浸しの状態でスキャンされ、その傷付きやすく繊細なポリプに損傷を受けることもなく、一分以内にタンクへと戻される。この方法なら、サンゴは研究中も生き延び、その終了後も更に成長していくことができる。

Coral scanning

サンゴの岩礁は、世界中で約七~八千種の若年の海水魚に安全な場所を提供する、複雑で多様な海洋生態系である。小さな魚は豊富な量の食べ物が周りで漂う中、岩礁の隙間や曲がりくねった通路状の部分に隠れ、大きな捕食者から逃れることができる。

多くの人々の考えとは異なり、サンゴは傷付きやすい生物であり、しっかり生きている。サンゴはそれぞれ、ポリプと呼ばれる何百から何千もの小さな生物から成り立っている。通常、ポリプの全長は一ミリから十ミリほどで、硬貨と同じ厚みをしており、硬い石灰石でできた外骨格を柔らかい外部構造で包んだ形状をしている。

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ショウガサンゴ(学名Stylophora pistillata)の接写画像。画像は、ジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

絶滅の危機

過酷な環境圧の中、気候変動や過度な漁業、汚染の為に、一九五〇年代から世界のサンゴの岩礁の五十パーセント以上が死に絶えている。最悪の場合、残りのサンゴの九十パーセントはこの先百年生き残ることはできない、とも言われている。

すべてのサンゴが死に絶えると、魚類も生き延びることはできない。そして、絶滅してしまうと、元に戻すことはできないのである。

そのことが数え切れない数百万もの魚類やその他の海洋生物の喪失、また、その継続的な供給に依存している何十もの産業の衰退を含めた、世界中に及ぶ、広範囲の影響へつながることは言うまでもない。

サンゴの岩礁は、アルツハイマー病やがん、心臓病などの治療のための複数の薬品の重要な成分ともなっている。

ジェシカ・レイカート博士は、ユストゥス・リービッヒ大学ギーセン(Giessen University)の研究班と共に、地球環境の変化のあらゆるサンゴ種への長期的影響の調査研究を行っている。

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ジェシカ・レイカート博士、Artec Spiderとショウガサンゴ。画像は、ジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

この研究は、大学内のOcean2100 水槽施設により実現し、研究者はこの施設で、起こり得ると考えられる地球環境の変化の状況をモデル化し、サンゴや岩礁、そしてその周りで生息する有機体への影響を調査研究することができる。

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ユストゥス・リービッヒ大学ギーセン内のOcean2100水槽施設。画像は、パトリック・シューベルト博士(Dr. Patrick Schubert)のご厚意で掲載

最適な環境条件を作り出す

合計九千リットルの海水の容量を持つ、この特別に設計された水槽施設は、別々に管理され、終日監視下にある二百六十五リットルの容量を持つ十八の水槽で構成されている。

この施設で、研究者は上昇する水温や様々な段階の酸性化、マイクロプラスチックの存在する海水など、サンゴが直面する環境に近い条件を再現する。

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あらゆる種類や大きさを持つマイクロプラスチック。画像は、ジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

レイカートは自身の研究班と共に、現在、三十種類のインサンゴや、その他ニ十種類以上の関連する岩礁生命体を取り扱っている。

サンゴは、実に驚くべき生物である。一匹のサンゴは、個々のポリプが死んだとしても、理論的には何百年も生きることもある。そのため、異なる種類のサンゴに対する長期の経時変化の研究が必須となる。従来の六十日から九十日に亘る研究だけでは、実際に起こる物理的変化を推測し、把握するには不十分なのである。

更に長い期間における研究であっても、研究班の計測ツールでは測定値の正確さは保証できない。コロニー増殖(colony growth)は、科学者がサンゴに対する外圧の影響の研究をする際に役立つ、最も重要なパラメータの一つである。

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インドネシア、バリ島のサンゴ岩礁。画像はジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

しかし、サンゴの寸法を把握するための厚いロウ、若しくはアルミホイルを使用した従来の手法では、一匹の生きたサンゴを正確に繰り返し計測するのは不可能に近い。

この手法は両方共、現在でも利用されているが、その欠点は一目瞭然である。熱いロウを使用した手法では、一匹のサンゴを火傷するほど熱いパラフィンの入った桶に漬け、完全に乾燥した後にワックスの外殻で増加した重量を計測する。

残念ながら、サンゴはこの過程を生き延びることはできないため、続く計測ではそばにいる別の、明らかに寸法の違うサンゴを使用するしか方法はない。

この過酷な過程でサンゴが命を失うことを避けるため、アルミホイルを使用して、同様ではあるものの精度のはるかに劣る計測を行うことも可能ではあるが、この過程は更に時間を必要とし、非常に進みが遅い上、その結果として得られる測定値も、サンゴのゆっくりした成長(一日につき〇.八~五ミリ程度)を数値化するには全く不十分なものとなる。

新たなテクノロジーの導入

しかし、以前採用されていたどちらの方法も、大学ではここ数年使用されていない。代わりに、最適な計測法として、Artec Spiderでの3Dスキャニングが全面的に採用されている。

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スキャニングを待つアオサンゴ(学名Heliopora coerulea)。画像はジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

3D スキャニングなら、すべてのサンゴへの身体的接触を最小限に抑えるため、サンゴが計測のすべての過程の完了後も生き残ることができるだけでなく、スキャン作業全体も一分以内で完了する。

このことは、生産性にもかなり大きな効果があった。レイカートの言葉によると、「通常は、一日の午後では五十匹ほど、丸一日では百匹ものサンゴをスキャンする。以前は、サンゴの生存の保証については言うまでもなく、これほど素早く作業を行うことも不可能であった」ということである。

「ある長期のスキャニングプロジェクトでは、三百匹のサンゴを扱う。サンゴはまとめてスキャンする必要があるため、現在使用しているSpider抜きでの従来の方法では、そのような短時間内ですべてのサンゴを計測することは不可能であり、その計測過程においては複数の研究者が必要となるか、若しくは精度のレベルを落とすことになるだろう」と、レイカートは語る。

ワークフローの観点では、レイカートはすべてのスキャンを一度に行い、その後にArtec Studio上でスキャンデータの処理に取り掛かる。

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Artec Spiderによるタバネサンゴ(学名Acropora humilis)のスキャニングの様子。画像はジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

スキャニングは二人の研究者が担当することが必須となるが、これは、スキャン用に水槽から取り出したばかりの水浸しのサンゴを回転テーブル上へ設置する際、一人がサンゴを扱う間にもう一人がSpiderによりスキャンを行うことができるためである。

研究班は特定の種類のサンゴの設置の際に利用できる、「爪楊枝と針」を使用した方法も編み出し、設置状態を変更することなく、サンゴ全体を上から下までスキャンすることができるようになった。

Spiderの湿気や水滴を通したスキャンを可能とする性能も、その有効性が立証された。レイカートは、Spiderはサンゴが水にぬれていてもしっかりとスキャンを行い、光の反射などの問題も全く起こらなかった。この点は、スキャン設定を試しているうちに気付いたことだ」と続ける。

さらに、「Spiderでは設定をカスタマイズできるため、対象物のスキャンが可能かどうかを確認するために時間を掛ける必要もない。そのため、他のスキャナではキャプチャが不可能なものも、Spiderではスキャンすることができる」と話す。

例を挙げると、鮮やかな色の複雑な形状を持つサンゴをスキャンする場合、研究班はその入り組んだ構造の細かい部分さえもキャプチャできるよう、データ感度をより高く設定する。反面、暗い色の非常に単純な形状を持つサンゴのスキャンにおいては、感度を低めに設定する。研究班は早い段階から、各種類のサンゴに対する最適なスキャナの設定をリスト化していた。

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ショウガサンゴのSpiderによるスキャンデータ(テクスチャの無いものと適用済みのもの)のスクリーンショット。画像はジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

Artec Studioでのスキャンデータの処理完了後、通常、サンゴの3DモデルはOBJファイルとしてMeshLabへエクスポートされる。研究班は、自動的にサンゴのモデルのサーフェス領域や容積を分析するための、独自のPythonスクリプトも開発した。

Spiderによるスキャンデータの、その他の重要な用途への適用の可能性も拡がった。ブラジルの研究仲間で数学者でもあるAndré R. Backesは、主にサンゴの複雑さの度合いや類似性を確かめるために、サンゴのフラクタル次元解析用のC言語プログラムを開発した。

研究班の最新の調査で判明したのは、世界中の海のマイクロプラスチックの割合の上昇が、サンゴの成長や健康状態に直接影響している点である。同時に、サンゴは海をきれいにするために食物と間違えてマイクロプラスチックを飲み込み、自身の骨の部分に蓄積させている状態であることも分かった。

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サンゴの炭酸カルシウムの骨格に入り込んだマイクロプラスチック。画像はジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

海中における更に大規模な研究

ほとんどの人々の想像とは反対に、マイクロプラスチックを最も発生しているのはシャワー用ジェルや化粧品などの高級な製品ではない。それよりも遥かに大きな規模での発生源となっている最も酷い「犯人」は、自動車のタイヤの削れた粉末や合成衣料、塗料の粒子である。

レイカートは研究班と共に、摂取されたマイクロプラスチックがサンゴの構造を弱め、より脆くさせている原因となっているかどうかについても調査を行っている。これが立証されれば、世界の海岸線地帯は、嵐や津波を防ぐために唯一存在している、サンゴの岩礁を失う危機に晒されていることを更に強調することになる。

これまでの研究では、マイクロプラスチックによる環境被害だけでなく、その神経毒性や、我々のDNAまでも変えてしまう特質が証明されている。

このような影響に言及し、レイカートは「我々は、マイクロプラスチックの即時の廃止や、大幅な削減が行われない場合の将来的な影響、十年、二十年後に起こり得る事象に注目している。我々には方向転換を行う必要があり、即座に行動を起こす権限と責任がある」と語る。

レイカートと研究仲間が注目しているもう一つの点は、水温の上昇した海水や海水内の二酸化炭素の割合の上昇、特にサンゴの骨格の形成に強く影響している海の酸性化をも含んだ、環境変化のサンゴに対する影響である。

また、サンゴのこのような形態的な変化が、波の動きにもたらす影響についても調査が行われている。サンゴは周りの環境に強く影響されるため、海洋で強い潮流が起これば、弱く穏やかな海流の中に生息する場合と比べ、その成長の仕方も変化する。

同様の目的を持つ研究において、レイカートの研究仲間であるコロンビア国立大学サンアンドレス校(Universidad Nacional de Colombia, Sede Caribe)、及びOCEÁNICOS(海洋学及び海岸工学研究グループ、Grupo de Investigación en Oceanografía e Ingeniería Costera)のJuan David Osorio Cano工学修士/博士は、レイカートのSpiderのスキャンデータからサンゴのモデルを3D印刷したものを水路に設置し、サンゴの形状の経時変化に対する周辺の水流の影響を調べている。

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Blenderを使用した、ショウガサンゴの3Dモデルを3Dプリンティングするための準備。画像はジェシカ・レイカート博士のご厚意で掲載

3D印刷されたサンゴを使用し、研究者班は取り扱いを誤ってサンゴを死なせる恐れもなく、次々と行う実験においてサイズや形状の変数を一定に保つために、サンゴの正確な寸法を得ることができる。

レイカートは、Spiderによるスキャンデータが我々の現在行っている研究の実現に貢献した点については、いくら強調しても足りない。サンゴの成長や形状の経年変化をこの精度で追跡することは、Spiderを入手する以前では不可能であった。現在では、このすべてを可能とする性能を利用することができる」と話す。

さらに、「より経験のある研究者の眼であれば、サンゴを観察するだけで、その形状の変化を認識することができるが、それだけでは科学の観点からは不十分である。Spiderのスキャナがあれば、このことを数値的に計測でき、その形状変化の様子を正確に示すことができる。このデータがあってこそ、現在の状況とその根拠について把握することが可能となる」と付け加える。

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水流を用いた研究での使用準備が完了した、3D印刷されたショウガサンゴ。画像はJuan David Osorio Cano博士のご厚意で掲載

レイカートと研究班は大学において、多くの異なる種類のサンゴの研究を続けている。

それにもかかわらず、いっそう多くの調査すべき事象が存在している。その例としては、サンゴの形状変化の様々な生じ方や、その変化を引き起こしている要因、こういった項目に関する蓄積された知識の岩礁生態系への最適な利用方法、そして、その上で、要因の岩礁の複雑性への影響、及びその結果として岩礁周辺に生息する魚類や、最終的に我々人類へもたらされる状況を把握すること、などが挙げられる。

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