3Dスキャンソルーション

Artec 3D社のウクライナへの支援内容

Artec Evaと個別製作の義肢装具で、アルメニアでの戦争の犠牲者の生活を支援

課題:アルメニアとアゼルバイジャンの間の紛争の発端は数十年前に遡るが、その紛争は今でも続いている。市民の多く、特に男性は、十八歳の少年に至るまで高い確率で腕や脚を失い、手や足にケガを負っている。未発達の生活基盤や質の高い医療を受けることが困難な状況により、その多くは身体に合わない義肢装具を身に付け、標準レベルに満たないソリューションに頼る状態である。

ソリューション:Artec Eva、Artec Studio、Artec Cloud及び3D printing

結果:戦争の犠牲者や患者は、Artec Evaによりスキャンされ、個別の義肢装具の作成に使用されるデータをキャプチャされている。アクセスの難しい地域の人々にも、データはArtec Cloudに簡単にアップロードされ、共同作業を可能とする。

なぜ、Artecなのか:使いやすく、非常に持ち運びしやすいArtec Evaは、データを素早く簡単にキャプチャすることができ、Artec Cloudを利用することにより、データ転送にも手間がかからず、遠隔地から複数で作業を行うことができる。

Armenian war victims

個別の義肢装具の作成のための、患者からの3Dデータのキャプチャ作業の様子。

持続可能なソリューションのための新たなテクノロジー

アートヨム(Artyom)は話すときに腕を組むが、この仕草は、アートヨムも含め、誰もが自然に行う。我々の手の動かし方は、非言語的コミュニケーションにおいて、重要な役割を担う。事故で両腕を失った若者であるアートヨムにとっても、それは同じである。

「二〇〇三年に事故が起こるまではサッカーの選手で、ゴールキーパーであった。しかし、事故後は、お分かりのように、腕が無いとゴールキーパーはもう務まらない。ただ、スポーツが好きなことは今でも変わらず、観ることも参加することも好きなので、コーチにはなれるかもしれないと考えた」と、アートヨムは語る。

アートヨムは二つの女性チームのコーチをしており、現在、ある夢を持っている。それは、身体にしっかり合った、快適で機能性の良い義腕を手に入れることである。彼の苦労は、他の義肢装具使用者も味わっていることである。アルメニアには、一般の国内平均を上回る肢脚切断患者が存在するが、質の良い医療を受ける機会も限られ、貧しい環境下で生活している人も多く、最適とは言えない義肢を使用している人も多い。

Armenian war victims

新しい義肢の試作品を紹介されているアートヨム(右)。

「アルメニアはそういった状況であるため、上腕の義肢の開発に真剣に取り組んでいる人などはいない」と、アルメニアを拠点とするNGOであるoqniの共同創始者兼CEOのHajk Bagradjansは話す。「社会問題省(the Ministry of Social Affairs)の支援により、海外から義肢装具を輸入する企業もあるものの、その過程は非常にお役所仕事的だ。義肢を受け取ったとしても、二、三週間後には壊れてしまう。この表面を見てごらんよ」

アルメニア人のディアスポラの人々により結成された組織であるoqniは、こういった問題に触発されて創設され、そのメンバーは、このコミュニティに改善をもたらし、長期的なソリューションを開発すべく集結した。

「軍隊の拡大と一九八九年の地震、発生率の高い交通事故や糖尿病により、アルメニアには他の地域に比べ、多くの肢脚切断患者が存在する」

「oqniは、二〇二〇年のアルメニアでの戦争を受けて結成された。戦争のため、特に地方では、多くの若者が義肢も入手できない状態か、あるいは、個別製作による、快適で安定した義肢が見つからない、という板挟みの状態にある」と、Bagradjansは語る。

Armenian war victims

義肢の個別製作のため、患者のデータのキャプチャに使用されるArtec Eva

しかし、アルメニアでは、問題は戦争の犠牲者だけではない。Oqniによると、国内には、他国と比べて多くの肢脚切断患者が存在するということだ。その多くの原因は、長年にわたる、その他の軍事的激化、一九八九年に発生した地震、発生率の高い交通事故や糖尿病による。

「地震の後、海外の企業や救援隊員が訪れ、義肢の使い方を人々に説明した。しかし、過去三十年間、状況はあまり変わっていない。人々は未だに従来の方法に頼っているが、新たな技術に触れることにも強い関心を持っている」と、Bagradjansは語る。

ソリューションを求めて

新たな技術の導入の話は、それよりも前に遡る。二〇二〇年、COVID-19パンデミックが、特に感染者の多いパリで猛威を振るっている間、フランスの軍医であるRoman Khonsari博士は、Artec社製のスキャナの使用を開始した。それは、需要の高く、急速に入手困難となった、防災用医療用品の3D印刷されたものの品質管理の為であった。

自身もアルメニアのディアスポラの一員であるKhonsari博士は、仲間とNGOを発足する構想を立ち上げた際、Artec社のテクノロジー機器を勧めた。

Oqniの一員であるSassoun KelechianのArtec 3D社宛のEメールには、「現在、Khonsari博士と共に、アルメニアで義肢を製作するために3Dテクノロジーを導入する人道的プロジェクトに取り組んでいる。そのため、Artec社製の3Dスキャナについて、お話がしたい」と記されていた。

3Dテクノロジーの導入計画が発展するにしたがって、チームも同じく発展していった。

「我々の成長を続けるチームには、心理学者からエンジニア、理学療法士、実業家まで揃っている。豊富な人材が、ドイツ、フランス、アメリカ、アルメニアなど、世界中から集まっている。このことが、このチームのDNAの形成に大きく貢献していると言え、我々の活動をより良いものとしていく後押しとなる」と、Bagradjansは話す。

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Ortez義肢装具センター(Ortez orthotic and prosthetic center)を訪問中のArtec社とoqniのチーム。

正確さと使いやすさに重きをおいて身体部分をスキャンする際においては、Artec Evaは理想の機器であった。Artec 3D社を代表するスキャナであるArtec Evaは、中規模のオブジェクトのスキャンに優れている。軽量で簡単に操作できる、この構造化光3Dスキャナなら、素早く、テクスチャを適用した、正確な3Dモデルを確実に製作できる。また、Evaは、人間のように、可動するオブジェクトやサーフェスを扱う場合において、重要となる箇所を素早くスキャンすることができ、高解像度で正確な計測も可能とする。

今回のケースで個別製作された製品は、義肢のカバーである。

「この製品は基本的に、義肢の見栄え、及び保護のためのカバーである」と、Bagradjansは説明する。「義肢の管を付けて、金属の棒が露出したままで歩き回ったり、付け心地も悪く、衛生的でもなく、もう片方の脚のサイズを基に設計されないことが多いフォームソリューションを使用したりする代わりに、我々のソリューションは、3Dスキャニングテクノロジーと併用することにより、健康である方の脚や体形の大きさや寸法と一致するだけでなく、3Dプリンティングによって患者の方のサイズ、お好みのデザイン、その他の仕様を取り入れることのできる、個別に対策を提供する義肢のカバーとなる」

Evaがワークフローに追加される前は、その工程には遥かに時間が必要だった。

「Evaによるスキャンなら、健康な脚全体の形を組み合わせ、左右対称の形での製作が可能となる」

「3DスキャナのEvaは、我々に大変革をもたらした」と、Bagradjansは説明する。「以前は、すべて手作業で工程を行っていた。義肢のカバーの製作では、計測も手作業で行わなければならなかったため、それを行うこと自体は問題なかったものの、正確さはあまり期待できなかった」

患者との面会により、oqniチームにはいくつかの発見があった。まず、良い義肢を製作するための大きな要素の一つは、義肢のカバーは、もう片方の脚の寸法と形状を複製したものであるべきである、という点だ。「患者にとって、ズボンを穿いた時、両足の違いに誰も気付かないことが、非常に大事なのである」と、Bagradjansは言う。ショーツを履いた場合でも、両脚の対称性は保たれる。

「Evaが無ければ、異なるサイズのものを用意し、それを手作業で合わせる初歩的な方法を採るしかなかった」と、Bagradjansは説明する。「しかし、3Dスキャニングソリューションにより、遥かに高精度に作業を行うことができるようになった。健康な脚全体の形を組み合わせ、左右対称の形での製作が可能である」

具体的には、まず、患者がoqniチームと面会するが、スキャンの可動性により、自宅やオフィス、その他、面会に相応しい場所で行うことができる。そして、チームは、患者について、少し情報を聞き出す。ここでは、切断された状況のみでなく、色の好みやデザインなども含まれる。

「例を挙げると、一度、『ゴス』に夢中な患者がいて、カバーに骸骨を付けることを我々は約束した。この面会は、患者自身を知る過程でもある」と、Bagradjansは経験談を話す。

スキャニングはこの後に始まる。患者が部屋の真ん中に立ち、一度のスキャンで、健康な脚と切断された方の両方のキャプチャが行われる。両脚切断患者の場合は、その両脚がスキャンされる。

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義脚と健康な脚両方が、全体のデータキャプチャのためにスキャンされる。

スキャンは、平均では一分以上もかからないが、患者が立つことや、じっと立っていることに慣れていない場合など、ケースによっては最大五分かかることもある。

次にスキャンデータの処理が行われる。この段階では、Artec Studioにおいてミラー機能が利用され、健康な脚が義脚に反映された。「このことにより、最も正確な寸法を求めることができ、個々の義脚のカバーの製作の仕方や、その完成時の形状について、より理解を深めることができる。後者は、カバーを金属の管にぴったり合わせる形で製作するために必要である」

チームにもたらされたもう一つの画期的技術は、Artec Cloudである。「これは、義肢装具学とリハビリの機会へのアクセスの地方分散化だと言える。Artec Cloudは、そのための大事な役割を果たす」と、Bagradjansは話す。

Artec Cloudを利用することにより、チームのメンバーやそのパートナーは、より遠くの場所でもスキャンを行い、即時のフィードバックを得ることができるようになった。「例えば、最近スキャン方法を学んだばかりの人でも、スキャンにそれほど詳しくない人でも、今ではスキャンを行い、そのデータをCloudにシェアすることができ、我々はそれに対して即座にフィードバックをすることができるようになった、ということだ」

データキャプチャが完了すると、カバーの3Dモデリングが始まる。「この段階で、第一段階での患者との面会での情報を取り入れる。すなわち、患者と出会った場所、カバーの色やデザイン、(義肢を固定させるために)必要な穴の数などである」

それが完了すると、最終段階へ突入する。ここでは、モデルを3D 印刷し、患者の残肢に合わせる。

安定感を持った義肢の利用

チームは患者のための義脚の保護カバーの個別製作に励んでいるが、もう一つ、見落としてはいけない点がある。それは、心の健康である。

臨床心理士で、oqniの業務最高責任者(Chief Operations Officer)であるHaikouhi Oroudjianが、その専門性で母国を支援するために、このプロジェクトに参入した。

「身体に変化が生じたからと言って、それで必ずしも人生が悪くなるわけではなく、ただ、前と違うようになっただけである。それに、人生を良い方向に持っていく方法も存在する」

「Hajkに出会ったとき、精神衛生に関してソリューションがコミュニティを支援する方法について語り合った。これは、アルメニアやコーカサスが、心の健康に関して、大きな傷を負っているからである。具体的に言うと、戦後のトラウマのことだ」と、Oroudjianは説明する。

義肢カバーの製作はoqniの任務の上では重要だが、人間科学や心の健康、患者の健全性を取り入れることも大切である。「そうしないと、意味がない」と、自身も肢脚切断患者の祖母を持つOroudjianは説明する。「誰かに金の義肢を作って、上手く作動させるためのすべてのツールを与えることができたとしても、その結果としての外観に心理的な拒否感が生じれば、すべては水の泡となる」

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ソリューションに大事なのは、その物理的側面だけではない。心理的要素の役割も大きい。

oqniの患者の特徴を考慮すれば、変化は不可欠だ。「身体の変化について話すと、特に、十八歳の少年のように若いとき、若しくは、糖尿病を患った場合には、本人だけの所有物である、身体が変化する。それでも、毎朝、気持ち良く目覚めたいなら、考え方の転換が必要となる」と、Oroudjianは語る。「この考え方の転換は、身体に変化が生じたからと言って、それで必ずしも人生が悪くなるわけではなく、ただ、前と違うだけである、ということを理解するためにも役立つ。それに、人生を良い方向に持っていく方法も存在する

外部の組織との協力

義肢のカバーの製作の他にも、oqniには現地や国際的な組織との強い結び付きがある。例を挙げると、運動面で問題を持つ、あらゆる種類の患者を扱うOrtez義肢装具センターがある。

「アルメニアの切断患者は、主に経済的な問題を抱えている」と、Ortezの所長であるAraig Tekyozyanは語る。「肢脚切断患者は、健常者と比べ、労働を行って給料を得ることが困難だ。こういった患者は、肉体労働関連の仕事をもはや引き受けられないため、職業を得ることにも支障をきたす」

その上、その多くが、肉体労働の必要性が少なく、仕事が比較的手に入りやすい産業分野であるITやプログラミングにおいても、十分な知識を持っていない。

「我々は、総合体系における肢脚切断患者の健康状態を改善し、その生活を充実させていく手助けのできる機会を思い付いた」と、彼は付け加えた。

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Ortezの所長は、患者を扱う際に先端技術を利用することを強く提唱する。

「小さな国ではあるが、義肢装具やその導入における質は高い」と、Tekyozyanは話す。「3DスキャニングやCAD/CAMを使用できることは、動けない患者を扱う際にも重要となる」

Evaがあれば、患者を訪問する専門家は一人で十分だ。「一台の小さな、持ち運び可能な機器だけで、患者に不快な思いをさせることなく、計測を行うことが可能となる。最新型の機器である上に、使いやすいこの機器の需要は高い」と、彼は話す。

未来へと力強く進むoqniは、同じエレバンのEngineering Cityで活動を行っているArmbionicsとも提携している。このアルメニアの独創的企業は、筋電信号により義手を動かすことのできる、生体信号による電動式の手を専門的に扱う。患者は、サーフェスEMGセンサー(surface EMG Sensors)を用い、筋肉から受け取った電気信号を通じて、より直観的に電動式の手をコントロールでき、指一本、二本、もしくは五本で物を握ることができる。

このことに加え、oqniは大学や、教育を基本としたプログラムを行っている地域内のTUMO研究所で、学生、兵役経験者、実業家などの養成を行っている。

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oqniチームはエレバンのTUMO研究所で、学生や3Dに興味のある方たちと活動を行っている。

現在の活動、そして、将来的展望

一年前の設立から、oqniはアルメニアで3D印刷された義肢カバーにより、百二十人以上の肢脚切断患者を救ってきた。また、理学療法や心の健康に関するブックレットやアプリの作成に励み、科学や教育におけるイニシアチブを開発している。

「我々が提唱しているのは、ここに集まるすべての次世代のエンジニアや、ハードウェア、ソフトウェア開発者、設計者の教育に大いに投資することである」と、Bagradjansは話し、毎週、TUMO研究所でのトレーニングセッションに出席している方々に言及した。

発端となる事業のみにこだわるだけでなく、oqniは次のステップとして、自らのソリューションをオープンソース化し、世界の肢脚切断患者が無料で利用できるよう、準備を進めている。

「3Dモデリングのコースを通じて、兵役経験者や肢脚切断患者は現在利用できるツールの使い方を学んだ上で、再び労働人口に加わるようになる」

恩送りをすること以上に、社会的に人助けをする方法があるだろうか? 肢脚切断患者であった人々は、今や、貢献する側にもなろうとしている。現在、切断患者や兵役経験者、その他、戦争の被害に遭った人々の、3Dモデリングのプロフェッショナルとなるための技術向上を支援する新しい取り組みが進行中である。

「肢脚切断患者に力を与える、という目的に忠実に活動を行うoqniは、適切な技能と機会を与えられれば、誰もが目標や夢を達成することができる、と考えている」と、Oroudjianは話す。「3Dモデリングコースを設立することにより、兵役経験者や肢脚切断患者は現在利用できるツールの使い方を学び、更なる自信を持ち、準備の整った状態で労働人口に再び加わることができる」

更なる習得や就業の機会も、既に用意されている。

「最も優秀な候補生は、oqniのチームに加わり、未来へのソリューションの構築に貢献していく」

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