3Dスキャンソルーション

Artec 3D社のウクライナへの支援内容

ケニアの原人の祖先を Artec Eva とSpace Spiderでデジタルにキャプチャ

概要: 近年まで、考古学的なオブジェクトをデジタルでキャプチャして分類するという作業は、時間がかかり正確性に欠けるものとして認識されていました。

目的: 軽量3Dスキャナを使用して、オンサイトの考古学的なオブジェクトを遠隔地でデジタル的にキャプチャ。さらなる研究に使用できる3Dモデルを作成します。

使用工具: Artec Eva、Space Spider

3Dスキャンに関しては基本的な使い方しか知らない古生物学の学生が、古生物学の世界的検知が発掘した遺跡をスキャンするためにケニアに旅立ちました。

ケニア北部のトゥルカナ湖水域には古生物学や考古学の遺跡が数多く埋まっており、20世紀半ばからここで発掘調査に取り組んでいるリーキー博士の家族とそのチームによりさまざまな画期的な発掘が行われてきました。特に有名なのは、150~160万年前のものと推定される10歳のホモ・エレクトゥスの少年のほぼ完璧な骨格と、200万年前に道具を使用していたと考えられるヒト属原始ヒト科種のホモ・ハビリスでしょう。実際、このヒト亜科にホモ・ハビリス(「道具を使う人」の意味)という名前を付けたのはリーキー博士の家族でした。

トゥルカナ盆地研究所でARTEC Space Spider 3Dスキャナを使ってサンプルのデジタルレプリカを作成する様子

トゥルカナ湖で10年に及ぶ調査を続けた後、リーキー博士の家族はこの地にトゥルカナ盆地研究所(Turkana Basin Institute:TBI)を設立し、この地での研究調査を促進していけるようにしました。2014年夏、TBIは大型オブジェクトの正確なスキャンに最適なARTEC Eva 3Dスキャナと、小型オブジェクトの高解像度スキャンに最適なARTEC Spider 3Dスキャナを購入し、ARTECのデニス・ビーブから使い方のトレーニングを受けました。それ以降、ルイーズ・リーキー博士率いるチームは、TBIが収集した膨大な化石コレクションが3Dデジタル化されています。

TBIの施設

TBIの保管室

TBIの化石コレクションの一部である化石

ルイーズ・リーキー博士とそのチーム

TBIは発掘現場やラボラトリーで、先史時代の動物や原人の骨をスキャンする作業を手伝う研究員をいつも歓迎しています。モスクワ州立大学の大学院で古生物学を研究している学生ナタリア・プリレプスカヤさんは、この募集広告に応じ、ARTEC EvaとARTEC Space Spiderの3Dスキャナを使い化石をスキャンするために トゥルカナ湖へと飛び立ちました。

ナタリア・プリレプスカヤさん(左)とルイーズ・リーキー博士

ナタリアさんはこの経験を次のように話してくれました。

「TBIでの私の仕事は、ARTECの新機種Space SpiderとArtec Evaを使って古生物学の化石をスキャンすることでした。3Dスキャナの使い方を学んでいる時間はありませんでした。実際、現地に向かうまで、取扱説明書を読み、実際に使ってみる事ができたのは数日のみでした。ARTECのオルガ・スクヴォルトソヴァさん、デニス・ビーブさん、ヤロスカヴァ・ラプティンスカヤさん、そして私の主人であるセルゲイ・スコーヴェイは、とても忙しい中、貴重な知識を共有してくれたことにとても感謝しています。

TBIでは、学んだスキルをすべて使って作業しました。簡単な作業ではありませんでしたが、不可能なことは何もありません。

TBIの保管室にいるナタリアさん

ロシアで私が学んだことのほとんどが現場で使える実践的なスキルでした。」3Dスキャンは陶芸を作るときのロクロでの作業に似ていました。陶芸は私の趣味なので、とても楽しかったです。スキャナはオブジェクトの情報のみを収集するわけではありません。その触り心地まで収集します。スキャンしたデータはまるで粘度で成形したかのように、そのまま3Dで再現されます。

Space Spiderを使ってサンプルをスキャンするナタリアさん

データ漏れのない3Dモデルを作るために、まず、スキャナの操作方法を学ぶ必要がありました。この作業では、オブジェクトではなくパソコンの画面をしっかりと見ていなければなりません。このように作業を進めることに慣れなければなりませんでした。最初は、オブジェクトを見たり、画面を見たりして、キョロキョロしていました。しかし、オブジェクトを見ながらスキャンをしていると、大抵は、あらぬ方向をスキャンしており、[ARTEC Studioの]緑色のフィールド枠から出たりしていました。

また、スキャン速度も重要でした。Space Spiderを使うときはゆっくりと、滑るようにスキャンを動かしていく必要があります。カクカクとした動きは禁物です。一方、Evaを使うときは素早く全体をスキャンできます。Space Spiderを使ったスキャンでは、回転テーブルを使うと良いですが、TBIには回転テーブルはありませんでした。

もう1つ学んだことは、スキャナが十分にデータを収集すると自動的に停止することでした。この機能がなければ、無用に同じところを何度もスキャンし、プロジェクトデータが膨大となり、処理に大幅に時間がかかっていたことでしょう。

TBIでの作業初日で、最初の古生物学的サンプルのスキャンが完了しました。オブジェクトは180万年前のヒヒ(パピオ・アヌビス)の頭蓋骨でした。この作業にはTBIのスタッフであるティモシー・ギシュンジェさんとロバート・ンゲチュさんが付いていてくれたためたくさんのことを学ぶことができ、とてもラッキーでした。同じラボラトリーで作業できたので、わからないことはその場で確認でき、作業効率を高めました。2人共、嫌な顔ひとつせず手伝ってくれました。

発掘現場でのチームワーク

ティモシーさんが実際にスキャンするところを見せてくださいと頼んだところ、これがとてもいいアイディアでした。自分でスキャナを操作するだけではなく、プロがどのようにスキャンするかをこの目で見ることはとても役立ちました。ティモシーさんは、無駄な動きを1つせず、完璧なミニマリズムを実践しながら、オブジェクトを周るようにしてゆっくりとSpiderを動かしていきました。ティモシーさんが撮ったスキャンの品質は素晴らしいものでした。あんな風にスキャンする方法を学びたいと思いました。

ティモシーさんは回転テーブルの代わりに使えるものを見つけました。それは、ファイルポケット上に小型オブジェクトを置き、ポケットの端っこを掴んでそれを回すという技でした。ファイルポケットは透明なのでこのアイディアはとてもうまく行きました:Space Spiderは透明の背景は認識しないため、スキャンしないからです。これにより不要なデータをモデルから削除したり、テーブルから排除するという作業に時間をかける必要がありませんでした。

その場しのぎの台を使ってサンプルをスキャンする様子

何回かトレーニングしていくうちに、私のスキャンスキルも向上していきました。時々、ティモシーさんとロバートさんに、私がスキャンする様子を確認してもらい、おかしなところがあれば直してほしいと頼みました。この作業もスキル向上にとても役立ちました。

ナタリアさんがサンプルをスキャンする様子

私が主人であるセルゲイから学んだ技をティモシーさんに教えてあげる機会さえありました。アンテロープの曲がりくねった角をスキャンするときは、角の先端がとても細くなり、まるで空中に浮かんでいるような状態になるため、Space Spiderはトラッキングを失ってしまうことがあります。そんなときは角の先端にテキストや画像のある紙を貼ると、スキャナがこれをアンカーとして認識し、トラッキングを失うことはありません。スキャンしたオブジェクトを編集する時にこの紙は削除すれば良いのです。

角が立派なアンテロープの頭蓋骨

気候もスキャンスキルの学習に役立ちました。現場はとても暑く、スキャンをしていた部屋は風通しが良かったにもかかわらず、ノートパソコンが頻繁にオーバーヒートしました。パソコンでできるだけ長く作業するために、氷を入れたプラスチック容器の上にパソコンを置き、氷が溶けたら取り替えるという作業を繰り返しました。

発掘現場の灼熱の1日

また、強風にも対策が必要でした。止むことなく吹き付ける風のため、埃や砂が舞い、私たちが使用しているハードウェアのすべての穴や開口に入り込みました。ミーブ・リーキー博士は透明の保護カバーをノートパソコンにかけていました。

作業場周辺には虫がほとんどいなかったことはとても幸いでした。この時期、この地域には虫の大群が襲来し、虫は明るい場所をめがけてやってくるため、電気を消さなければならず、夜作業することはほとんど不可能になるからです。この問題を解決するのは、画面の色を変える専用ソフトウェアです。たとえば、MacではBlack Lightというソフトウェアが使用されます。

暗闇の中での作業

TBIに滞在中、ナタリアさんは更新世~完新世時代(260年前から現在に至る期間)にトゥルカナ湖周辺に生息していた7種類の哺乳類の頭蓋骨をスキャンしました。完成した3DモデルはAfricanFossils.orgウェブサイトの3Dプリントセクションに掲載されています。このサイトに登録すれば、必要なモデルをダウンロードし、プリントすることができます。

ヒト科と動物の3Dモデルのコレクションを作成することがいかに重要かは言い尽くすことができません。

第1に、3Dスキャン技術により、研究者は古生物学的サンプルの形状の正確なデータを得ることができるようになりました。もちろん、サンプルを定規やノギスを使って測定することもできますが、このようにして得た情報は不完全で正確性も劣ります。同様に、写真や図面もオブジェクトの形状を常に正確に反映するわけではありません。

TBIに保管されている角のある頭蓋骨各種

第2に、3Dスキャンにより、サンプルの形状に関する情報を保存することができるようになりました。頑丈そうに見える化石でも、直射日光や雨風、現場での寒暖激しい気温変化によりボロボロに崩れてしまいます。博物館に収容されているオブジェクトでさえ、湿気や不適切な温度、その他の悪条件により崩壊することがあります。

化石に悪影響を及ぼす一般的な要因は黄鉄鉱病で、これに感染すると化石が腐敗し崩れてしまいます。この病気は、湿気を含んだ酸素豊かな環境における気温変化や気圧、バクテリアの活動により発病します。

正確な3Dスキャンにより、オブジェクトの3Dイメージを自然の色のまま正確に保存することができます。スキャナを使ってできたモデルには、寸法などオブジェクトに関して必要な情報がすべて含まれており、研究者は化石に直接触れなくても研究することができます。

悪環境下で骨は崩壊する傾向にあります

第3に、3Dモデルコレクションを作成することにより、サンプルに関する情報を広く共有することができます。科学者はサンプルを見るために、発掘現場や博物館まで出張する時間や費用をかける必要がありません。複数のラボラトリーが連携し、標本の形態に関する3Dデータを共有することで、作業効率と研究品質を向上させることができます。

TBIで最近新たに標本に加わったのは、詳細に調べる必要がありながら、動かしたりひっくり返したりすることが極めて難しい、巨大な象の頭蓋骨のスキャンデータです。「標本をスキャンし、詳細モデルで作業することはとてもワクワクする作業です」と、ルイーズ・リーキー博士は言います。ARTEC Evaを使ってスキャンされたサンプルをスキャンし、ARTEC Studio 113Dソフトウェアで処理していくことで、オブジェクトの正確な3Dモデルを最短時間で作成することができます。

ARTEC Evaを使って象の巨大な頭蓋骨をスキャンするティモシーさん

ARTEC EvaとSpiderを使ってキャプチャされた象の頭蓋骨の化石の3Dスキャンデータ

最後に、3Dモデルは教室の視聴覚教材として使うことができるので教育の質を高めます。3Dモデルはコンピューター画面に映し出すことも、3Dプリンターを使ってプリントすることもできます。3Dプリントも急速に普及しています。

3Dスキャンは、壊れやすく貴重な発掘物を保存することができ、これまで以上に詳細にサンプルを研究するために地域に制限されない幅広い研究者間の連携を可能にし、ヒトの起源に関する基本的な質問への答えを探すための興味を若い世代を焚き付けるパワフルなツールで、古生物学研究に新たなチャプターを開きました。

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