Artec Evaで人工腓腹筋の3Dプリントを制作
目的: ハンディ型3Dスキャナを使用し、女性の下脚をスキャン。彼女の負傷した脚のために快適な装着用補綴物を制作します。
利用ツール: Artec Eva、Solidworks、Zbrush、3DS Max、 Photoshop
このストーリーは、オルガというロシア人の少女が産業用3Dプリントサービスを手がけるロシアのオンラインサービス会社Can Touchに、ある特別なリクエストをしたことで始まりました。オルガはスカイダイビングという危険を伴うエクストリームスポーツに夢中でした。あるとき、スカイダイビング中に右脚の腓腹筋を負傷したため、筋肉組織をほとんど失い、左脚と比べてその違いは明らかでした。このため、オルガは自分の外見にコンプレックスを抱いていました。そこで、彼女の脚にぴったりと装着できるよう設計されたプロテーゼが欲しかったのです。
プロテーゼの設計開始
Can Touchはオルガに連絡をとり、プロテーゼを作るために何が必要かを彼女と話し合うため、ミーティングを設定しました。Can Touchとオルガは一緒に計画を立てました。この計画には次のような段階で構成されていました。
- 両脚を3Dのスキャン
- 3Dモデルの作成
- プロテーゼを3Dプリンタでプリント
- プロテーゼの試着
両脚のスキャン
最初に行ったのは、両脚をスキャンすることでした。ここで活躍したのがARTEC Evaでした。スキャンはエンジニアであるアレクサンダー・ゴロデツキーが行いました。アレクサンダーはスキャナのケースも設計した人物です。チームは非常に精度の高いスキャンを必要としていたため、極めて慎重に作業を行いました。
Evaはキャリブレーションやマーキングを必要とせず、その素晴らしい使いやすさを発揮しました。1秒間に16フレームをキャプチャし、リアルタイムで自動的にデータの融合を行います。これにより、キャプチャしたところを確認し、どの部分をより詳細に撮る必要があるかを見ることができます。
1秒間に最大200万点までキャプチャし、同時に処理を行うEvaは優れた解像度(最大 0.2 mm)と高精度(最大 0.1 mm)を実現します。従って、Evaは体のパーツをスキャンするのに理想的なソリューションです。
プロテーゼの3Dモデルの作成
ここが最も多くの人手を必要とし、時間がかかる作業でした。作業は、経験豊富な3Dモデラーであるヴァレリー・カラオグランヤンが手がけました。彼の使命は、オルガの要請に配慮しながら、2つのポイントクラウド(健康な脚と負傷した脚のスキャン)を使って、コスメティックプロテーゼの3Dモデルを作ることでした。そこには、既製のソリューションなど存在せず、すべての作業をゼロから行う必要がありました。
まず、SolidWorksを使って両脚のソリッドステート3Dモデルを作成しました。これができたら、健康な脚のモデルの反転データ(ミラー化)を作成します。次に、負傷した脚のソリッドモデルをそこから“差し引いて”いき、皮膚が呼吸できるように隙間を設けました。
当初は、内部パーツと外部パーツの両方をメッシュサーフェースを採用しようと考えていました。しかし、オルガが外側レイヤーを滑らかにするよう依頼したため、予定を変更することにしました。
メッシュサーフェースを作成するには、デザイナーはいくつかのプログラムをあちこち使って3Dモデルに手を加える必要があります。まず、UVマップとグリッドモジュールを作成するため、ZBrushにデータをインポートしました。次に、Photoshopでグリッドをマップ上にスーパーインポーズした後、3DモデルをZBrushにもう一度インポートしました。この段階で、デザイナーは出来上がるプロテーゼの厚さを設定するという問題に直面しました。ZBrushにはこの機能がないのです。そこで、デザイナーは3DS Maxを使うことにしました。
また、チームはSolidWorksを用いて、金具も作成し、3Dモデル化しました。これらの準備が整った段階で、メインとなるプロテーゼの3Dモデルと統合しました。
デザイナーは持てるスキルと想像力をあますところなく使い、ゼロから3Dモデルを作成するためのアルゴリズムを開発しました。最終的に、チームは、腓腹筋プロテーゼの3Dプリントしやすい完璧なモデルを作成しました。
3Dプリント
3Dプリントは、プロテーゼ作成の最終段階です。チームは白いプラスチックPA 2200(ポリアミド)を使用しました。耐久性が高く軽量なこの素材は、頻繁に装着されることが期待されるコスメティックプロテーゼを作成するのに最適です。この素材からオブジェクトを作るのに使用されたのは、選択的レーザー焼結でした。これは、レーザーが指定された点に沿って粉末材を焼結していくという技術です。
プロテーゼの試着
プロテーゼを試着することでプロセスの成功した点と改善すべき点が明らかになります。初回反復スキャン時では、必ず改善すべき点が出ます。金具に問題はなく、プロテーゼは脚にぴったりと装着しました。しかし、脚は汗をかき、素材がやや肌触りの悪いテクスチャであったため、脚とプロテーゼの間で柔らかい素材を使う必要があることが分かりました。プロテーゼの外側レイヤーをメッシュのままにしていたら、脚も“呼吸”することができていたため、通気性の問題は解決されていたでしょう。
オルガは、出来上がったプロテーゼを気に入り、期待通りだったと言いました。しかし、本当の使い心地は、あらゆる状況で使ってみてから分かるものです。
これは、Can Touchにとって、初めてのコスメティックプロテーゼ作成プロジェクトとなりました。プロジェクト中、チームはいくつか失敗を犯し、いくつかのプロセスを繰り返し行わなければならず、無駄な作業もいくつか行いました。それにもかかわらず、今回の経験は、プロ仕様のハードウェアとソフトウェア、そしてエンジニアのスキルさえあれば、プロテーゼや人形、ロケットエンジン、その他ほとんど何であれ、高品質のオブジェクトを作成することができることを証明したのです!
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