香港、中華圏でのArtec Ray及びLeoを用いた海洋動物の法医学検査
課題:法医学検査、研究、並びに保護を目的とするクジラと同程度の大きさの海洋哺乳類動物のフルカラー3Dでのキャプチャ。
ソリューション:Artec Eva、Artec Space Spider、Artec Leo、Artec Ray、Artec Studio、及びにCTスキャン
結果:一連のArtec 3Dスキャナを利用し、クジラ、イルカ、海亀、その他の動物が接触した船、怪我や死の原因と思われる損傷したサーフェスと共にキャプチャされている。収集された研究結果、及び提言は明確な保全手段の支援、及び外傷予防のための効果的な解決策の発見のために政府機関省庁、及び船舶企業などの分野の出資者と共有されている。
なぜ、Artec 3Dなのか:クジラの腹溝から全長、及び胴回り、更には船舶、並びにボートに至るまでのあらゆるものをキャプチャする幅広い種類のスキャナを併用し、Artec Studioが前述の海洋動物の完全な3D像を作成するためにあらゆるデータを組み合わせる役割を果たし、研究、及びそれに伴う不可欠の議論、及び保護へ直接貢献する。
法医学、及び検視というと、人体や病院、遺体安置所、及び研究所を思い浮かべる方がほとんどだろう。しかし、以上の用語は科学の世界では遥かに幅広い意味を持ち、人類の仲間の哺乳動物も含んでおり、この場合は海洋に生息する更に多くの種類の生物を指す。そして、香港のある研究班にとっては、3Dテクノロジーが海洋動物の法医学検査と組み合わされ、動物の外傷から被害を与えた船舶に至るまでのあらゆるものの3Dスキャンに利用されている。
Artec Leoでスキャンされる死んだイルカ
「我々の主な研究対象は香港、及びその近海で打ち上げられた海洋生物で、南シナ海沿いの生息域の沿岸海域を利用して生息している動物である」と、香港城市大学(City University of Hong Kong)のAquatic Animal Virtopsy Lab(海洋生物スキャニング検視研究所)の助教、及び獣医画像診断研究者であるブライアン・コット(Brian Kot)は話す。
この研究の目的は少なくとも野心的であると言えるもので、それはスキャニング検視による死体解剖捜査の手法を通じて、自然、及び海洋動物への人間に起因する影響の科学的でかつ正確な証拠を提供することである。この手法とは、岸に打ち上げられた死骸、並びに外傷の原因と疑われるものの3Dでの記録、及びそういった死骸の検視時のCTスキャン、MRI、及び超音波による検査である。このことにより、死亡検査、照合分析、及び事故現場の仮想的再現のための完全な電子コピーが生成され、手短に言うと、怪我を負った、あるいは死亡した海洋動物の記録、その理由の調査、及びそのような事故の将来的な防止方法の検討に利用される。
Artec Space Spiderでスキャンされるイルカ
「船舶との接触は、地域に生息するクジラ目の動物にとって主な人為的脅威であった」と、コット教授は説明する。 「二〇一八年において、船舶の接触を示す鋭利な力、もしくは鈍力による外傷は、我々が遭遇した三十八匹の座礁したクジラ類のうち、十九匹に確認できた」。そのような接触は二〇二〇年のCOVID-19流行後の海運の減少によって減少したものの、未だに更なる数の脅威がある。二〇二三年には、漁具の絡み合い、もしくは最急性の海中の罠の跡が、報告された二十五匹の打ち上げられたクジラ類の内の十五匹に認められた。
スキャンされるウミガメの甲羅、及び胴体
「我々が目指すのは、海洋保全、及びイルカや海亀の保護という目標へ向けて調査を進めることにより、科学を基にした議論及び方針決定を促すことであり、このことで『ワン・オーシャン・ワン・ヘルス(One Ocean-One Health)』という最終的な目標へ向けて活動を続け、海洋動物を生態系の健全性の見張り役として利用することが可能となる」と、香港城市大学、海洋生物スキャニング検視研究所シニア研究助手兼管理者(Senior Research Assistant and Manager)であるヘンリー・ツイ氏(Mr. Henry Tsui)は要約する。「そして、訴訟が起こった場合には、以上のような発見は写真による二次元の画像よりも遥かに正確で、信頼性のある証拠としての役割も果たすことが可能となる」
目的達成への『船隊』の編成
研究班は当初、対象となる動物の外観のキャプチャに写真撮影やフォトグラメトリのような従来の手法を使用したが、いずれも満足の行く結果には繋がらなかった。
「写真撮影そのものが環境下の光の状態や距離、その他多くの事象を含む複数の要因に影響される」と、コット教授は話す。「そのため、皮膚の状態、外傷や怪我、それに原因となるものも含めて視覚化するための3Dモデルが必要だった」
あらゆる3Dスキャニングの代替手段を試した後、担当班は最終的にArtec 3D社に解決策を見出した。
発見された当時の海亀。現在では高解像度の3Dでキャプチャ済
「当研究所がArtec 3D社を選んだ第一の理由は、色彩が我々にとって重要であるからである。外傷や怪我を調査する際、そのテクスチャが遥かに多くの情報をもたらす。例えば、傷が最近のものか、それとも治りかけのものか、もしくは得られる情報はあるのか、などを確かめることができる」
研究班は程なくして、中規模の大きさを持つオブジェクトのキャプチャ向けの多用途性ソリューションであるArtec Eva、並びに細かなディテールのキャプチャを極めて高精度で行う際に業界で愛用されているSpace Spiderを皮切りに、研究用器材の幅を更に拡げることにした。「我々は動物の胴体全体のスキャンにEvaを、頭部や背びれ、性器の開口部、及び如何なる外傷や皮膚の損傷などの焦点となる関心領域にはSpace Spiderを利用した。通常、データの取得には二~三十分ほどかかる」と、コット教授は話す。「Artec Leoも利用しており、イルカやネズミイルカのスキャンは五~十分ほどで完了する」
ワイヤレスのArtec Leoを使用してクジラの詳細に迫る
イルカやネズミイルカの他に、研究班は海亀もスキャンする。このような事例のために、ワイヤレスでAI駆動型、そして驚くほど簡単に操作できるArtec Leoは大規模なサーフェスの周りの移動、及び迅速なキャプチャを邪魔になるコードやケーブルの無い状態で行うことのできるよう開発された。
必須となる記録
当研究目的は動物の外観だけではなく、体内のスキャン、並びに調査でもあるため、スキャニングは慎重に、かつ極めて細部にわたり行われる必要がある。
「当研究所の主な目的が対象動物の外観と体内のデータの両方を組み合わせ、全身の総合的な3Dモデルを作成することであることは、お分かりだと思う」と、コット教授は説明する。「そのため、我々は動物をCTスキャンのテーブルの上に設置し、側面をスキャンしてその側面図を得て、同様に上面図、下面図を得る、という順に作業を行う」
完全なデータセットの取得のために動物はCT 、及び3Dでスキャンされる
死骸は外観の完全なスキャンの後、体内のスキャンのために切開される。その配置状態は変わっていくため、外部の3Dスキャンデータと体内の容積測定によるCTデータが組み合わされて使用され、Blenderのような高度なレンダリングソフトウェアにより分析が実行される。
全身の徹底的な記録は永久に保存可能な上、総合的に詳細な証拠として多くの利点があることから、研究班にとって計り知れないほど役に立つことが判明した。「お分かりのように、動物の胴体を切り開くことは、縫合することは二度とできないために検視や詳細な分析の後になる。後戻りはできないからだ」と、コット教授は語る。「そのため、3Dデータとモデルがあれば、特定地域のみでなく、国際的にも複数回の調査が可能となる。というのは、世界中の異なる専門家集団と更なる調査のために共有もできるからである」
Artec Rayは動物の怪我や死の原因と考えられるボート、船、及びそのサーフェスのキャプチャに使用されている
10分でクジラをスキャンする方法
クジラやボートのように大きいものを扱う際こそ、Artec Rayが輝くときである。「大きなクジラを扱う場合は作成されるデータセットが膨大なものになるため、Rayを利用して記録を行う」と言うのは、香港城市大学海洋生物スキャニング検視研究所の特別研究員兼科学コーディネーター、タブリス・チュン教授(Dr. Tabris Chung)である。フォトグラメトリを利用し、研究班はその後、3Dモデルに色を付け、高度に詳細で、正確なスキャンデータを得ることができる。これは、世界最大の哺乳類動物を扱う際でも可能となる。
データは、研究班が進めている他の調査やプロジェクトと連携しての利用も可能である。前述の海域に生息するイルカへの脅威としての船舶の衝突に対処する調査が、その一例である。
不幸にも、このような海中生物は発見されたときに既に死んでいることが多い。ここでは、クジラ全体がArtec Leoでキャプチャされている
「以上のような事故の多発地域を見出し、海域の周辺に現れる船舶の種類を特定することができる」と、チュン教授は話す。「その上で造船所を訪れ、あらゆる種類の船舶を確認する。Artec Rayを利用すれば、船舶の底をスキャンできる」
全てのデータが高解像度の3Dで無事に収集されると、分析、及び現場の再現が行われる。
ボート及び船舶の部品も、証拠として収集される
「最も重要なことは、このような傷つきやすいイルカにどのように船舶が衝突するかについての人々の理解に本調査が役立つと同時に、怪我を回避する方法への理解にも繋がることである」と、チュン教授は話す。「以上の点は大切であり、我々が引き受ける調査対象のほとんどに所有しているArtec 3D社製のスキャナを利用する理由でもある」
利用ツールの共有
研究班は以上のような海洋動物の収集、提示、分析に今でも力を注いでいるが、同時に未来にも焦点を合わせている。これまで、現地、地域、そして世界の参加者に検視調査への3DスキャニングおよびCTスキャンの利用方法についての授業を行うため、年次の検視調査ワークショップの一環として3Dスキャニングの講座を行ってきた。
しかし、他のあらゆることと同様に、重要なのは死の原因だけでなく、環境や前述の素晴らしい海中生物の総合的な健全性にも目を向けることである。
3Dスキャニングの利用法とその能力を実演するためのワークショップが開催されている
「非常に重要なこととして、動物の死の原因より、健康上の問題を包括的に考慮すべきである」と、コット教授は話す。「伝染性の病気はクジラ類に対しては普通に発生しており、寄生虫性肺炎、もしくは筋骨格疾患のために移動が困難となる場合がある。視覚、あるいは聴覚障害は狩猟採集能力の低下、周囲への反応の鈍化、及び船舶と接触する危険性の上昇に繋がる」
「我々は絶滅危惧種の海中生物への明確な保全手段の設定という目標の下では、ボートを単に責めることはできない」と、コット教授は忠告する。「それよりは、このような動物の生物学的健康の理解に更に努め、自然、及び人間に起因する影響に関連する危険の軽減を目指すべきである」
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