Artec社製のスキャナはガラスを通してオブジェクトをキャプチャできるのか
課題:氷河期時代の生物の壊れやすい化石をデジタル化することにより、Artec社製のスキャナのガラスを通したオブジェクトのキャプチャ性能を試すこと。このことで、地元の文化遺産の歴史は、最低、一万二千年延長されることになる。
ソリューション:Artec Leo、及びArtec Studio
完成品:地域の博物館のデジタルアーカイブのための、二十万ポリゴンを持つ、テクスチャの適用が完了した高解像度のNeosclerocalyptus(更新世期に生息した被甲目種の生物)の3Dモデルで、これまでよりも幅広い科学者のコミュニティや、一般に向けての公開が予定されている。
Artec 3D社製のスキャナは、あらゆる状況で使用されており、多くの産業分野での数え切れない数のワークフローに対し、理想的なソリューションを提供してきた。そのような機器には、白昼の太陽の下でオブジェクトをキャプチャすることが可能で、クラウドへのスキャンデータの直接送信もでき、コンピュータを搭載した完全ワイヤレスで、Web上のブラウザで遠隔制御もできるようなスキャナがある。
Artec社製の、リアルタイムの共同作業が可能なプラットフォームであるArtec Cloudを使用すれば、3Dスキャンデータのアップロード、ダウンロード、インポート、エクスポート、閲覧、コメント追加、シェア、処理など、数え切れないほどの操作が可能である。Artec社製のスキャナでキャプチャできるオブジェクトには、爪のように小さなiPhoneのSIMカードトレイから巨大な貨物船まで、ほぼ全てのサイズのものが含まれる。
スキャナのこのような特有の汎用性を考慮すると、その更なる可能性についての様々な質問が頭に浮かぶ。こうしたスキャナがその力を発揮できる、この他の状況にはどのようなものがあるだろう? 全てのArtec社製のスキャナは、オブジェクトのキャプチャの際にターゲットを設置する必要がないことから、ガラスを通したスキャニングは可能だろうか、という質問が自然に生じてくる。
この方法のみが解決策となるような状況は、多々考えられる。例えば、博物館の芸術品をデジタルキャプチャする場合である。もしくは、窓を通してオブジェクトをスキャンしなければならない場合で、犯罪現場の記録に利用されることもある。
南アフリカの当社の認定パートナー企業の一社であるDisegno Soft社は、この質問に興味を示し、議論するよりもその実例を示した方が話は早い、と考えた。そのために、同社は、市全体の伝統文化を豊かにするような物語を創り上げることにした。舞台となる都市はアルゼンチンのサンフランシスコ市であり、物語が詳細に扱うのは、奇妙なことに、アルマジロの歴史である。
サンフランシスコは、アルゼンチンのコルドバ州の東端に位置する都市である。この都市は、百二十万平方キロメートル(四十六万平方マイル)以上の広範囲の土地を占める、南アフリカのパンパ低地に属する。
重要なことには、その地域には水源がごく稀にしか存在しないため、歴史的に動物や人間の生息しない領域と考えられていたのである。そのため、一九九〇年中ごろに、建設業者が多くの異なった種類の有史以前の動物の骨を発掘した際には、その発見は少し奇妙に思われた。
アルゼンチン、サンフランシスコでの遺跡の発掘(写真は、The Graphic Archive Foundation and Historical Museum of the City of San Francisco and the Region[サンフランシスコ市と地域の図版保管機構および歴史博物館]の厚意により掲載)
発見された化石に含まれていたのは、Neosclerocalyptusと呼ばれる、アルマジロ科に属する絶滅した動物のものであった。Neosclerocalyptusは、進化論の父である、あのチャールズ・ダーウィンが興味を持っていたと考えられている、グリプトドン(glyptodont)という種に属する動物である。
この注目すべき発見には、ほぼ完全な形の頭蓋骨も含まれており、希少な出土品と見なされた。サンフランシスコの地域の図版保管所歴史博物館(Regional Graphic Archive and Historical Museum)のアルベルト・オレラーノ(Alberto Orellano)は、この素晴らしい発見をこう語る。
「我々は、三十以上もの化石を幸運にも回収することができたが、Neosclerocalyptusのものは初めてだった。発見された場所は不思議なところで、それは、肉食動物、草食動物を両方含んだ、様々な動物種の化石が出土した発掘現場内にある、ハイウェイの十九号線と百五十八号線の交差点だった」
サンフランシスコ市にとって、この発見は特別に誇りに思えるものであった。サンフランシスコ市の歴史の記録が始まったのは、移民の集落が設立された一八八六年である。都市として公式に宣言されたのは、三十年後の一九一五年である。
その時代以前の地域の歴史については、多くは明らかにされていない。しかし、この一つの発見により、都市の二百年の歴史の記録に、一万二千年前の歴史についての一ページを加えることができるのである。
The Graphic Archive Foundation and Historical Museum of the City of San Francisco and the Region(サンフランシスコ市と地域の図版保管機構および歴史博物館)は、公式に認知されているように、地域での歴史的発見を記録し、保存することを委任されている。オレラーノは、「我々の主な目的は、サンフランシスコ市、コロドバ州とその地域、および、アルゼンチン共和国全体の歴史の復元、研究、そして、その普及である」と説明する。
The Graphic Archive Foundation and Historical Museum of the City of San Francisco and the Regionは、地域の遺産の保存と普及の役割を担っている(写真は、Disegno Soft社の厚意により掲載)
そのため、この事業において、Disegno Soft社の3Dスキャニングの専門業者チームと協力することは、関係者すべてにとって、心の躍るような発見を秘めたものとなった。市の大切にしている遺産を保存する重要な作業が行われる一方で、Artec社製のスキャナが、ガラスを通したスキャニングの課題にどう立ち向かうのかを見極めることのできる、待望の実験を遂に実行する機会も設けられた。この作業に選ばれた機器は、Artec Leoであった。
Artec Leoは、受賞歴のある、現在販売されている中で最速のスキャナの一つである。コンピュータを別途に用意する必要もなく、完全可動性で、ケーブルを使用しないスキャニングが可能であるという点で、唯一無二のスキャナである。
Graphic Archive and Historical Museum of San Francisco and the RegionでのDisegno Soft社の技術者チームとアルベルト・オレラーノ(写真は、Disegno Soft社の厚意により掲載)
Artec Leoは、オンボードの自動処理機能、スキャン中にリアルタイムにレプリカを構築することのできるタッチスクリーン、内蔵バッテリー、そして第二の機器に動画をストリームすることができるワイヤレス接続性を備えている。同機器は遠隔操作も可能な上、Artec Cloudにスキャンデータを直接送信できる。
今回の事業では、その広い視野、そして、オブジェクトや場面の素早く正確な3Dスキャニング能力により、Artec Leoが理想的な選択となった。同機器はAI搭載HDモードも装備しているので、更にシャープでノイズの少ない、より詳細なスキャンデータを取得できるのである。
ガラスケースを通したNeosclerocalyptusの化石のスキャニング(写真は、Disegno Soft社の厚意により掲載)
Disegno Soft社のチームは博物館へ赴き、機器の性能を試してみた。ガラスを通して稼働させた場合でも、スキャニングの過程はひときわ円滑で、面倒な作業も発生せず、約二十分程度で完了した。処理、及び後処理の作業時間は別である。
処理はArtec Studio上で行われ、位置合わせや、データ上の目視できるガラスケースの端部や、全てのノイズの除去が行われた。3Dモデルはその後、後処理とレンダリングのためにSOLIDWORKS Visualizeへエクスポートされた。開始から終了まで、この工程の作業時間は合計で四時間ほどであった。
処理中におけるArtec Studio上での位置合わせ
一般に、ガラスを通したスキャニングをする場合、注意点が何点かある。品質の劣化が起こる原因となり得る要素は数点存在し、それは、ガラスの透明さ、ライティングの状態、ガラス上での反射などである。ガラスの屈折性の程度や、スキャナやガラス、オブジェクト間の距離も関係してくる。
この事例においては、スキャナの使用により、博物館のニーズに合ったモデルを製作することができた。その上、完成したモデルは、高度に汎用性のある3DスキャナであるArtec Leoの性能をうまく体現している。元の標本の貴重なディテールは3Dモデル上に再現されている上、スキャンのテクスチャも、オブジェクトの元の色彩を正確に反映している。
この3Dモデルは、サンフランシスコ市の遺産を保存する取り組みに大きく貢献していくはずだ。Artec Leoが導入される以前は、博物館の展示物は、写真や文書、歴史的な物品や古生物学上の遺物の標本に制限されていた。3Dモデルが追加されたことは、歓迎すべき進歩である。
「Artec Leoを使用する前は、3Dモデルを作成することも、それを他の博物館や専門家との間でシェアすることもできなかった。現在では、Leoによって化石を複製し、来館者の方々に対し、展示形式をさらにインタラクティブに、より興味をそそるものにしていくこともできる」と、オレラーノは付け加える。
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