犯行現場の足痕跡も触れることなく、数分の内に三次元での記録が可能に
課題:土や砂の表面上の法医学的足痕跡の記録における、携帯可能な3Dスキャナとフォトグラメトリの精度を比較し、犯行現場での足痕跡の従来の型取りの方法の代替案として3Dスキャニングを検討すること。
ソリューション:Artec Space Spider及びArtec Studio
結果:犯行現場での足痕跡は、Artec Space Spiderを使用すれば、フォトグラメトリよりも優れた精度で、一分もしない内に三次元で記録することが可能である。足痕跡の型とは違い、この3Dでの「デジタル型」は破損する心配もなく、移送や保存も簡単で、この先何年も信頼のおける物証となる。
なぜ、Artecなのか:現在では、足痕跡はカラーの三次元の形で、ミリ単位以下の精度で記録することができるため、手も汚れ、複雑で時間も非常にかかる(乾燥に二十四~四十八時間必要)型取りの手法に訴える必要もない。Space Spiderは専門家でない方々も、犯行現場での足痕跡のキャプチャ、そして、その場でのスキャンデータの各法医学班への共有を容易に行うことができる。
特定の人物を犯行現場と結び付けることのできる、DNA以外の一般的な二つの種類の物証は指紋と足痕跡である。テレビでの刑事ドラマやCSI(犯罪現場捜査)のドキュメンタリーの人気にもかかわらず、多くの犯罪者はより賢明になっており、顔を隠すためにマスクを装着したり、指紋を残さないために手袋を使用したりしている。
しかし、犯罪者が自身の履物の特徴を隠したり、変形しようと試みたりすることは非常に稀である。そのため、実際には、どの犯行現場も容疑者とその犯罪を直接結び付けることのできる履物の物証であふれている。
そのような物証は正しく記録、収集されれば、容疑者の特定のための豊富な詳細情報の提供だけでなく、犯罪そのものの一部の再現も可能とする。例えば、履物の種類、ブランド、サイズや特定のモデル、現場での犯罪者の数、犯行現場に到着するまでの足取り、現場での動き、そして立ち去った後の足跡、その上、実際に起こった一連の出来事さえも再現できる場合もある。
収集から比較まで
足痕跡の全体、若しくは一部が収集されると、SICAR、NFRC(国営履物参照資料集、National Footwear Reference Collection)、EverASMやSoleMate FPXなどの検索可能なデータベースを介して、何百もの参照用の靴との比較が可能となる。
合致する履物を発見することにより、捜査官は履物のロゴやデザイン、靴底の模様など、製造過程で作成されたすべての種類の特徴を確認する。
これに対し、履物の「個々の」若しくは「無作為に得られた」と表現される特徴は、着用中の摩耗の過程や予想外の変化の結果としてのみ生じるものであるため、上記のデータベースでは発見できない種類のものである。
このような特徴に含まれるのは、擦り傷、切り傷、切れ目、穴、摩耗、靴底に挟まった小さな石やその他の物品である。特定の靴を犯行現場で発見された足痕跡と結び付ける際に、このような特徴の組み合わせが非常に重要となる理由は、無作為に得られた一つ以上の同じ特徴を持つ二つの靴が同じ現場に存在する確率は、天文学的に小さいからである。
足痕跡の写真と靴を比較する法医学の履物担当調査員
FBIによると、サイズ八.五の靴底の表面積は約一万六千平方ミリメートルであるため、切れ目や小石、擦り傷などのたった一ミリのサイズの任意の特徴が一つでもある場合、同じ特徴が他の靴の同じ箇所に生じる確率は一万六千分の一しかない。
この数値には、靴のサイズや靴底のデザイン、及びそういった特徴の向き、形状、サイズは考慮されていないのである。
ここで、二つの異なる靴の同じ箇所にある偶発的な特徴の数を二、または三に上げてみると、その確率は劇的に低くなる。その数値は二つの場合は一億二千七百九十九万二千分の一、三つの場合は六千八百三十億分の一まで小さくなってしまう。
足痕跡と容疑者の関連付け
このような足痕跡の実際の犯罪捜査での利用方法を知るために、まず、履物調査員が検索可能なデータベースを利用して、殺人容疑者がサイズ十五のNike Air Jordan XXXVIのシューズを着用していた、と断定したとしよう。
調査員は、その靴の所有者を発見するために検索を絞ることができるが、その識別は、一致する個別の特徴、いわゆる靴の「指紋」を通じて、実際の靴と現場で発見される足痕跡の関連付けができた場合のみ行われる。
しかし、残念なことに、捜査では極めて重要であるものの、足痕跡は犯行現場や周辺で発見される物証の中では最も脆いものの一部に数えられる。そのため、特に、足痕跡が初期対応者や通行人による損傷の恐れがある場合は言うまでもなく、屋外で発見され、自然現象に対し脆弱である場合は、直ちに記録、収集する必要がある。
法医学における写真撮影および型取り:従来の記録・収集方法
長年の間に、検査に必要な画質を持つ写真の撮影により足痕跡を記録する過程は、今日まで進化を続けている。カメラはすべての写真が足痕跡の底部と同じ面上にある定規を含むよう、フィルム面が足痕跡に平行となるように三脚上へ慎重に設置される。
堅固で平らな表面に生じた二次元の足痕跡(潜在的なものも明らかなものも含め)の採取には、静電気法か、もしくはシール状の粘着物かゼラチンによる転写法が利用される。
法医学的記録用の準備が完了した二次元の足痕跡
砂や土などの柔らかく起伏のある基盤に生じる三次元的な足痕跡は、深さ方向の特徴も記録される必要があるため、過去何十年もの間使用されている歯石のような、シリコン若しくは石膏を基にした型取りのソリューションが必要となっていた。
足痕跡の物証としての型取りの困難な点
型取りによる手法の深刻な欠点は、その対象への身体的接触が多く発生する上、破損につながる恐れのある工程を含む点で、つまり、足痕跡が原型を留めない状態になり、物証として利用できなくなってしまうまでに、その記録の機会は一回しか与えられないのである。
型取り用の素材は混合され、使用準備が完了すると直ちに、同じ速度で均等になるよう、足痕跡へと流し込まれなければならない。それができなければ、素材の重量による下方への力により、固まる前に型が台無しになってしまう恐れがある。この過程が上手くいくかどうかは、大きな割合で犯行現場の技術者の腕にかかっている。
素材の混合の割合が不正確であったり、素材に泡が含まれていたりすると他の問題も起こる可能性があり、この場合、型が完全に固まった際に隙間が生じやすくなるため、捜査の観点からは使い物にならなくなる恐れがある。
この手法でのもう一つの課題は、型取り用素材が岩石類、土、草、小枝やその他の破片を含んでしまうことが多い点で、そのすべてが型の一部となってしまう。しかし、そのまま不純物を取り出すと型がひどく損傷してしまう可能性があるため、素材がまず完全に固まるのを待つ必要がある。
現場での歯石製の三次元の足痕跡の型
現場にいる間、型が落ち着くまでには四十五分から一時間かかる。その後になってようやく型を移動させることができ、完全に固まるまで二十四~四十八時間の間、安全な場所に保管し、その後に必要であれば、破片等を除去する。
雪上で三次元の足痕跡の型を取る必要がある場合には、別の手法が取られる。というのは、石膏を基にした型は乾燥する際に熱を発するため、雪が解けてしまうからである。
これを防ぐため、Snow Print Wax®のような製品を積雪上の足痕跡の型にスプレーすることもできるが、あまり近くから噴きかけたり、その量が多すぎたりすると元の足痕跡を変形させる恐れがあるため、注意する必要がある。このスプレーしたものが乾燥すれば、型取り用の素材を足痕跡へ流し込むことができる。
雪上の法医学的足痕跡
型の取扱いや捜査への利用は、完全に乾燥した後でないと不可能である。法廷前であっても、半永久的な保存用であっても、型は物証として保存される必要があり、その際に落としたり、扱い方を間違えたりすると破損しかねないため、その非常に重い型の出来上がりの寸法や重さも、作成時に考慮する必要がある。
素早く簡単で、非破壊的な物証収集のための3Dスキャニング
一世紀以上も前、法科学の父と言われるエドモンド・ロカール(Edmond Locard)が「すべての接触には痕跡が残る」と宣言した際、ロカールはおそらく物証採取方法について、そして、その過程では、証拠自体を破壊してしまうことが無くとも、何らかの変化を最低与えることは避けられない、という事実についても言及していたようだ。
今日では、足痕跡のような物証の記録や収集のための3Dスキャナの使用を行っている法執行機関や捜査当局が増えている。3Dスキャナは本質的に非接触で非破壊的であり、スキャニングは簡単で安全な上、物証を破壊する危険性もないため、このような作業には理想的な選択肢である。
足痕跡の型が乾くまでに必要な何時間もの待ち時間に対し、スキャナから完成する3Dモデルは、犯行現場であっても、キャプチャ後のほんの数分で出来上がる。そのモデルは市、州やさらに広範囲の地域のどんな場所の捜査員や技術者、機関にも共有することができる。
Artec社ゴールド認定パートナーであるPatrick Thornのご厚意により以下に掲載している、イギリスでArtec Leoにより一分間で取得された、積雪上のブーツの足痕跡のスキャンデータの二つのスクリーンショットが証明するように、3Dスキャナの中には積雪上の足痕跡のキャプチャに使用できるものもある。
積雪上の足痕跡のLeoによるスキャンデータを示すArtec Studioのスクリーンショット。撮影:Patrick Thorn
しかし、先に述べたように、型取りの過程での雪の変形を防ぐために使用できる特別なスプレーの存在にもかかわらず、法医学班の多くは現場でそういったツールが入手できない上、二十四~四十八時間の型取りの過程を終えるための時間がなく、器材も持ち合わせていない状態である。
Leoによる積雪上の足痕跡のスキャンデータ(テクスチャ抜き)。撮影:Patrick Thorn
証拠の比較:3Dスキャニング対フォトグラメトリと型取りの併用法
3Dスキャニングソリューションが足痕跡の型取りの適切な代替品になるかについて、また、現代のデジタルフォトグラメトリよりも優れている点を把握するための法医学的研究が、先頃行われた。
『携帯式3Dスキャニング技術を用いた足痕跡の証拠の採取(Recovery of Footwear Impression Evidence Using Portable 3D Scanning Technologies)』と題された研究が、オンタリオ技術大学の法科学研究者で学生のジュリア・ハーベイ(Julia Harvey)により、彼女のFEPAC(法科学教育プログラム認定委員会、Forensic Science Education Programs Accreditation Commission)公認の法科学学士課程プログラムの優等研究論文の一部として行われた。
ハーベイは、ai2-3D Forensics社の専門技術士であるユージン・リシオ(Eugene Liscio)、オンタリオ工科大学のテリサ・ストーツベリー(Theresa Stotesbury)博士、そして地元の警察機関の協力の下、調査目的を達成した。研究の中心は、法医学、古生物学、医学やその他の分野で何年も愛用されているプロフェッショナル用ハンドヘルド式3DスキャナであるArtec Space Spiderと、ソフトウェアのArtec Studioであった。
Artec Space Spiderを用いて三次元の足痕跡の記録を行う法医学研究者のジュリア・ハーベイ。撮影:ai2-3D Forensics社のユージン・リシオ専門技術士
Space Spiderは一秒に最高百万データポイントを〇.〇五ミリの精度(人毛の太さ)でキャプチャし、最も複雑な部類の足痕跡をターゲットやマーカーも必要とせず、一分以内でスキャンすることも可能である。
研究の実施を着実に
ワークフローの中心部において、ハーベイはブーツとスニーカーを使用して、土と砂でできた基盤の表面に四つの足痕跡をそれぞれ作成し、CloudCompareにおいて距離計算を行い、Space Spiderによるスキャンデータから作成された3Dモデルと、フォトグラメトリを用いて作成された3Dモデルの精度を見極めた。フォトグラメトリによる足痕跡のキャプチャには、Nikon社製24.1 MP D7100 DSLRが利用された。
3Dでの物証の完成を見届ける:Artec Space Spiderにより3Dの足痕跡の記録を行う法科学研究者ジュリア・ハーベイ。撮影:ai2-3D Forensics社のユージン・リシオ専門技術士
研究の成果は次の通りである。Artec Space Spiderのポイントクラウドと、三脚に取り付けられた3Dスキャナによって製作された高精度の基準3Dモデルの距離計算では、ポイントの九十七パーセントの絶対距離が〇.四九二ミリメートル以下であった。フォトグラメトリと基準3Dモデルを用いた同様の計算では、九十七パーセントの絶対距離は〇.五一二ミリメートル以下であった。
3Dでの足痕跡の記録において、Space Spider(上)の精度がフォトグラメトリによるもの(下)より優れていることを示すヒートマップの比較。撮影:ai2-3D Forensics社のユージン・リシオ専門技術士
「我々の研究結果が示すのは、Artec Space Spiderであれば、犯行現場での足痕跡の採取においては、携帯型の3Dスキャナが型取りの方法に取って代わることは可能である、という点である。その成果は二次元の写真撮影の場合と同様だが、3Dスキャナの場合は、すべての角度から足痕跡の詳細を拡大して閲覧することも可能となる」と、ハーベイは話す。
しかし、すべての3Dスキャナで事が足りるわけではない。通常、プロフェッショナル用3Dスキャナは、より低価格のソリューションよりも高精度でノイズの程度も低い。ハーベイの研究が示しているのは、スキャンデータにノイズがあまり多く生じると、足痕跡の再スキャンが必要となり、採取には倍の時間が掛かるという点だ。
ブーツの足痕跡のSpace Spiderによるスキャンデータを示すArtec Studioのスクリーンショット。撮影:ai2-3D Forensics社のユージン・リシオ専門技術士
それに加え、湿った土や泥など、あらゆる基盤上で生じた足痕跡は、過度の光の反射などの問題により、多くの3Dスキャナにとってキャプチャしづらくなる可能性があるため、導入した機器が、小さなレベルの個別の重要な特徴すべてを含め、足痕跡全体をキャプチャすることが可能かどうかを確認するには、実際の犯行現場で使用する前に、考えられる状況での試用を事前に行うことが望まれる。
ブーツの足痕跡のSpace Spiderによるテクスチャ抜きのスキャンデータを示すArtec Studioのスクリーンショット。撮影:ai2-3D Forensics社のユージン・リシオ専門技術士
3Dスキャニングとフォトグラメトリの精度の違いの他にも、法医学専門家や機関が恩恵に浴することのできる、以下のような利点がある。
- キャプチャ速度(足痕跡一点当たり一分以内)
- 現場にいる間に分析が可能(外底の外観と個々の特徴の間の距離計算)
- 複数の部門や機関の間での3Dデータの容易な保存および共有
- 法廷や捜査で使用可能な、本物のようなレプリカの3D印刷が可能
実例の説明用に3D印刷された法医学用足痕跡の縮尺モデル。撮影:ai2-3D Forensics社のユージン・リシオ専門技術士
ハーベイは、不完全な足痕跡や、異なる基板上に異なる天候状況で生じた足痕跡の三次元による採取も対象とした、研究の今後の方向性を見定めたいようだ。既知の履物と未知の足痕跡の3Dでの比較も、法執行機関にとって役に立つ。
「犯行現場での足痕跡のキャプチャだけに留まらず、プロフェッショナル用3Dスキャナには血痕の状況、弾痕、人体や遺体から、武器や道具、現場全体までを含むオブジェクトの記録を含め、更に多くの利用法がある。我々は、3Dスキャニングの可能性が法医学やその他の分野で拡大していく過程の、その始まりの段階を目撃しているに過ぎない、と考えている」と、ハーベイは語る。
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